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地方交付税を用いて公共事業によって再分配を実現しようとするのは、「政策手段の割当問題」として望ましくない。 なぜならば、地方交付税を通じた公共事業によって、地方にも存在する富裕な人たちを、都市の貧しい人たちの税金で保護することになりかねないからである。
これは明らかに不公平な再分配である。 政策手段の割当問題」とは、さまざまな政策手段を複数の政策目標にどのように割り当てると、政策目標を最も同時にかつ効率的に達成できるかについて検討したものである。
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者であるマンデルが明らかにしたように、ここには比較優位の原則が妥当する。 複数の政策目標を同時にかつ効率的に達成するためには、政策目標と同数の政策手段が必要であり、複数の政策手段のうち、各政策目標の達成に相対的に有効に貢献する手段を選んで、それを各目標達成に割り当てる必要がある。

これをもう少しわかりやすく説明しよう。 二つの病気を治すのに、有効性の異なる二つの薬が必要である。
一つの薬で二つの病気を治すことはできない。 とくに薬は副作用をともなうので、一つの病気を治すと、他の病気を悪化させてしまうかもしれない。
つまり二つの病気を治す(二つの政策目標)には、二つの薬(政策手段)が必要である。 次に、それらをどのように調合すれば、二つの病気を同時に治すことができるだろうか。
答えは簡単である。 それぞれの病気の治療に相対的に有効な薬を割り当ててあげればよい。
公共事業は再分配政策ではないこの割当問題の解を右に述べた公共事業について当てはめると、政策目標は、地方の活性化と分配の公平性である。 他方、用いる政策手段は、現状では地方交付税を通じた公共事業である。
このとき、政策手段の数が足りない。 地方交付税による公共事業だけでは、地方の活性化と分配の公平性を同時に達成することはできない。

地方交付税による公共事業は、かりに地方の活性化に貢献するとしても、分配の不公平をもたらす。 貧しい都市住民層から富裕な地方住民への再分配が生じる。
したがって、二つの目標を同時に達成するためには、もう一つの政策手段を用いる必要がある。 そしてこのとき、地域だけにかぎらず社会全体の分配の公平性を達成するためには、税制を用いることが効率的である。
他方、地方の活性化を達成するためには公共事業によるインフラの整備という政策手段を割り当てる必要がある。 これによって、それぞれが有効な貢献をすることになるであろう。
そのうえで、地方交付税を通じた公共事業は右に述べた副作用をともなうので、地方交付税制度を廃止して、地方の独立の財源で公共事業をまかなうことが必要であろう。 そのためには、地方分権化にともなって、自治体に課税自主権や自由な起債を認める必要がある。
これによって、地方の公共事業は地方の活性化に大きく貢献する。 この点については後に再検討してみよう。
いずれにしても、公共事業は効率性の観点からのみ、評価されるべきである。 分配政策という観点から評価すべきではない。
それでは、効率性の観点から公共事業を評価するためには、どのような方法が考えられるであ最近の経済学の研究では、公共資本が生産関数(企業活動)にどのような影響を及ぼすかを推計することが主な検討課題である。 この考え方に従えば、私たちの満足度を示す効用関数を推計することによって、生活関連投資が効用関数をどれだけシフトさせるかという点を、同様に検証することができる。
しかし、効用関数の推計というのは、観察可能なデータが存在しないために困難である。 私たちの効用を観察可能なデータとして評価することは、非常にむずかしい。
したがって、効用にかわる観察可能なデータを見つけることが必要である。 一つの可能性は、地価を用いることである。
いま資源の自由な地域間移動を前提としたうえで、人々は同一の効用関数を持っていると仮定する。 ここで、ある地域に公共資本が投下され、公共サービスの質が改善したとしよう。
この質の改善は地域住民の効用を増大させることになる。 地域間に生じた効用の差は人々の移動をもたらす結果、地域聞の土地に対する需要の変化となって反映する。

公共サービスの質の良い地域へ向かって人々が移動する。 土地に対する需要の変化は、地価の変化をもたらす。
したがって、地価の変動をとらえることができれば、公共資本ストックのサービスの違いが効用にどのような影響をもたらすかを間接的に評価することができる。 人々は地域聞を移動するときに、その地域ごとで得られる効用に従って地域を選択すると考えられる。
二つの地域の間で公共サービスの違いが存在すると、長期的には公共サービスの水準の高い地域あるいは質の良い地域に人々は移動していく。 その土地に対する需要は増加し、地価は上昇する。
つまり当初に生じた公共支出の違いが、効用の差をもたらし、その効用の差が地価の変化となって土地市場に現れる。 したがって、地価の差を適当なデータを用いてコントロールしたうえで、地域の公共投資ストックに回帰するという方法が考えられる。
クロス・セクション・データを用いて、地価を推定すれば、地域聞に存在する公共資本ストックの差を地価によって説明することが可能となる。 これが、生活関連投資がどれだけ人々の効用に影響を及ぼすかを評価する方法となる。
諌早の干拓事業も、この地価の上昇を用いて評価することができれば、地価の上昇額がこの事業にかかる費用よりも大きいときに、この事業は効率的と判断される。 これに対して、地価の上昇額が費用額よりも小さいとき、この事業は中止されるべきである。
これが効率性の基準である。 現状ではまだ、十分なデータや研究の蓄積は少ない。

これからは、このような観点から、生活関連型の公共資本がどれだけ人々の効用や生産関数に影響を及ぼすかについて分析することが重要になってくるだろう。 今後は、効率性の観点から、どのような公共事業が必要であるかという点についての議論を深めるとともに、異なる事業聞の便益を評価する手法やシステムの確立が必要である。
このための一つの可能性は、右に述べたように、地価を用いることである。 足による投票は事業の効率性をもたらすかこのような事業評価は、市場を通じては達成されないのだろうか。
この点を次に考えてみよう。 ここで重要なのは、住民の足による投票と情報公開制度である。
もし、地方分権が進み、地方交付税制度が廃止になって、地元の人たちの負担で自分たちの公共事業の資金が調達されることになれば、事態はどのように変わるだろうか。 公共財の供給は政治的な意思決定にゆだねられるから、効率性は保証されるものではないと簡単にいい切れるだろうか。
そのとき、諌早湾の干拓事業は本当に実施されるだろうか。 ムツゴロウよりも防災面を重視することが、いまと同じように主張されるだろうか。
課税自主権によって、地方自治体が自由に財源を調達できるようになれば、たとえば固定資産税の税率を自由に変えることによって、あるいは地方債を自由に発行できるようになれば、どのようなことが起こるだろうか。


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